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※上記宛先にメールを送られる際は、[at]を@に変更し、送信してください。2021年9月3日
報道関係者各位
慶應義塾大学薬学部
奈良県立医科大学
崇城大学DDS研究所
人工赤血球から新規シアン中毒解毒剤を開発
-即効性と汎用性を併せ持つ、シアン中毒の治療に有効性が期待-
慶應義塾大学薬学部、奈良県立医科大学、崇城大学DDS研究所の研究グループは、メトヘモグロビンを脂質膜で被覆したリポソーム型シアン中毒解毒剤を開発しました。本研究は慶應義塾大学薬学研究科博士課程1年の鈴木悠斗 (すずき ゆうと)、同薬学部の田口和明 (たぐち かずあき) 准教授、松元一明 (まつもと かずあき) 教授、奈良県立医科大学の酒井宏水 (さかい ひろみ) 教授、崇城大学DDS研究所の小田切優樹 (おたぎりまさき) 特任教授を中心とする研究グループの成果です。
シアン化合物 (青酸化合物) は、金属メッキ加工用品や殺虫剤、農薬、断熱材 (合成樹脂) などの日常用品に含まれています。一方で、シアン化合物は大量に吸入または服用すると致死性の中毒症状を呈する猛毒であり、火災時に建物が燃焼する際に発生するシアンガス含有煙の吸入や誤飲などの事故、自殺など、国内外の様々な状況下でシアン中毒は発生しています。現在、シアン中毒解毒剤として亜硝酸化合物が承認されていますが、赤血球中のヘモグロビンをメト化することにより解毒作用を示す亜硝酸化合物は、解毒効果を発揮するまでに時間を要することから迅速な解毒作用が得られません。また、ヘモグロビンがメト化した赤血球では酸素運搬能が低下するため、亜硝酸化合物は火災で発生した (一酸化炭素中毒を併発した) シアン中毒には使用出来ません。そのため、亜硝酸化合物によるシアン中毒の解毒には即効性と汎用性の改善が望まれます。
本研究では、人工赤血球製剤であるヘモグロビン小胞体に内包されているヘモグロビンをメトヘモグロビンに酸化したメトヘモグロビン小胞体 (metHb@Lipo) を新規シアン中毒解毒剤として創製しました。このmetHb@Lipoは、赤血球内のヘモグロビンをメトヘモグロビンに酸化することで生体内のシアンを捕捉して解毒効果を発揮する亜硝酸化合物の解毒機序を人工的に再現するコンセプトを基に設計しました。実際に、metHb@Lipoはシアンに対して高い結合力を有し、致死的シアン中毒モデルマウスの生存率を上昇させました。また、metHb@Lipoは、亜硝酸化合物よりも致死的シアン中毒モデルマウスを延命させるとともに、迅速な解毒効果と組織低酸素症を改善しました。
以上のことから、metHb@Lipoはシアン中毒に対して亜硝酸化合物より強力かつ迅速で汎用性の高い解毒剤であることが示されました。これは、metHb@Lipoがヘモグロビンのメト化に時間を必要とすることなくシアンを捕捉することで迅速に解毒が行えたためと考えられます。また、metHb@Lipoは赤血球中のヘモグロビンをメト化しないため、赤血球の酸素運搬能が維持されて低酸素症を抑制したと考えられます。そのため、metHb@Lipoは火災などの亜硝酸化合物の使用が困難な状況下で引き起こされたシアン中毒においても使用することが可能であり、シアン中毒治療の裾野を広げる新たなシアン中毒解毒剤として臨床使用されることが期待されます。
本研究成果は、国際学術誌『Journal of Controlled Release』2021年9月号に掲載されます(電子版は7月15日に掲載済み)。
プレスリリースの全文は、以下のPDFをご覧ください。